細分化と、全体から

一級建築士の設計製図試験を通して学んだことの一つは、細分化して考えるということである。参加した独学支援塾のY先生がそのことを、教えてくれた。Y先生はステップエスキースという本を出している方で、エスキースという大きな建物の計画を、13段階のステップに分け、一つ一つ検討しながら進めて行く方法を提唱している。つまり、難しい課題でも、小さく分けて、一つづつ解決していくと、全体が解決できるという考え方がベースにある。

 

この考え方を、私自身の情報発信、情報提供の仕方に応用できないかと思考錯誤している。一度に全てを理解するのは難しい。お客様の求めている情報を、段回的に提供することで負荷が軽減され、納得しながら判断できる。そのような情報環境を提供したい。文字情報だけでなく、実際試してみたり、体験したりできるツールを用意したい。その情報に触れ、お客様の課題解決の見通しが経てば、良いと思っている。

 

 一方、部分を全て理解しないと物事は進まないのかというと、そうでもない。部分を細かく検証し始めると、情報量が多くなり、煩わしくなることがある。また、疑念はいつも部分に集中する。だからと言って、全ての部分を明らかにすることが、期待されている訳ではない。全体の方向性が何となく合わない時、部分の疑問を理由に、異なる選択をしようとするのが、人の心理である。あくまでも、全体の方向性が、まず先なのだろう。

 

以前、三郷団地S改修の際、完成見学会を行った。来場者は、各お部屋の雰囲気を全体的に感じて、帰って行った。5名程、準備した塗装ワークショップを体験してくれる人がいた。図面や模型や工事中の写真を用意したが、関心を示す人は、ほとんどいなかった。まずは、全体の雰囲気、部分はその後、という順が、思考の流れであることが分かった。全体の雰囲気が良くないと、部分の検討に入らないという理解の仕方もできる。

 

モノ作り志向である私は、部分を積み上げ、全体を作ろうとしがちである。全体はあえて言及するものではなく、自分が良いと思っているモノを作る大前提であり、当たり前のスタート地点みたいなものである。更に、品質管理上、部分をきちんとするのは、当然のことだからである。

 

しかし、まだ見ぬお客様と出会うには、全体をまず最初に押える、或いは、全体をまず提示する、そのような思考も必要なのだろう。自分の前提を再度検証するというのは、難し作業である。生産の現場からキャリアを歩んできた私が、乗り越えるべきテーマの一つである。

 

「抽象と具象を行ったり来たりできる思考は、建築家の能力の一つである」というY先生の言葉が重く感じられる。