前回に引き続き、三郷団地S改修のエピソードをご紹介します。
三郷団地S改修は、小学生のG君の職業経験と社会経験の機会を提供するという目的があった。G君もセルフビルド工事に興味をを示し、珍しくやる気満々だという。初回の打ち合わせでは、G君の手書き図が手渡された。自分なりにリフォームの構想を練っていたことが分かる。洗面台の交換、棚の設置、押入れの改造、など三郷団地リフォームの定番の工事が書かれている。G君の独特の目線を感じる点は、配色についてである。
カベ うすいオレンジにぬる
トビラは黒にぬる
ブルーグレーにぬる
ふすまを外して黄色にぬって洋服をかける
ふすまはカベと同じグレー
白っぽいクッションフロアー
私が着目したのは「ブルーグレー」である。小学生が選ぶ色ではない。それとの同系色として、グレー、黒、白、が選ばれている。それらはベース・カラ―と位置付けられる。黄色とオレンジはアクセント・カラ―であろう。ブルーグレーというのは、青みがかった薄いグレーで、都会的なデザインや北欧デザインの雰囲気でまとめるときに選ぶ色である。その配色を見て、望んでいる色の方向性が何となく分かった。
塗装箇所については、G君の指示通りでは、少しもったいない気がした。色の組み合わせを効果的に楽しめるように計画し直す必要がある。押入の壁は荷物が置かれてしまうと、見ることができない。壁面についても、家具が置かれてしまうと、その色の効果が損なわれてしまう。むしろ、家具と組み合わせてお部屋の雰囲気作りに寄与する壁を塗る必要がある。
そう考えると、アクセントカラーの黄色とオレンジは天井面を塗るのが良さそうだ。お部屋に入り、天井を見上げると、鮮やかに塗られた天井面がある。天井面は家具や荷物に影響されないキャンパスのようなものである。ブルーグレーは、リビング・ダイニングの室内側の壁を塗るのが良さそうだ。梁型のないフラットで長い壁面で、部屋の中で一番大きい。団地の部屋の中央付近に在る点も象徴的で良い。玄関から入り、廊下を通って、ダイニングに入り、リビングのソファーに腰を下ろすと、ブルーグレーの壁が目に入る。そのような一連のシーンが生まれそうだ。
このような思考をえて、三郷団地S改修の配色は決まった。小学生G君の手書き図から始まったアイデアである。デザインのアイデアは、誰でも持っている大切な想い出の塊から生まれるのだ。