団地リフォームには思わぬ落とし穴がある。一番の落とし穴は、実は建物の精度が悪いという点である。今住んでいて、問題を感じないので、気付いた時、お客様の不安が大きかったりする。
「がっかりしている。こんなことなら工事をお願いするべきではなかった」そうお客様が呟いていた。「どうしたんですか」と尋ねると「洗面カウンター周りのコーキングの幅が真っ直ぐでない。だから、がっかりしている」というのだ。「なるほど、そう考えてしまうのか」と私は思った。
三方壁に囲まれている洗面所に、洗面台用の大きなカウンター天板を設置する場合、壁が直角でないと、細い三角形の隙間が出来る。そのため、三方の隙間のばらつきが、目立たないように、バランスの良い位置にカウンターを配置する。たいていの場合、コーキングで三方の隙間を埋めて仕上げる。コーキングは、見せるものではないし、むしろ汚れの原因になるので、最小限にする。すると、三辺のうち、二辺のコーキングの幅が、厳密に言うと細長い台形になる。
このことをお客様に説明すると、「へーそうなんだ」と言い、いつもの表情に戻られた。キッチン周りにもコーキング箇所が色々あるので、「どこか気になる所はありますか」と尋ねてみた。すると、キッチンの所に行き、一つ一つじっくり目で見て確認し始めた。そして、「どこにも気になる所はありませんね」と、我にかえったような表情をしていた。
お客様は、初めてのことばかりなので、思わぬ勘違いから不安で一杯になってしまう事がある。それを見越した配慮が設計者には求められる。