設計の打合せは、クライアントのモヤモヤした考えを細分化して明らかにする作業である。明らかにするという点で、言語化とも言える。更にそれに優先順位をつけたりるすので、階層化とも言える。
モヤモヤの中身は、もっとこうしたいというポジティブな考えと、困っているので何とかならないかというネガティブな考えが、複雑に混じり合っている。それを自分一人で明らかにするのは難しい作業である。おまけに、大抵の場合、日々の生活に追われ、忘れてしまっている事柄もある。
そのため、設計者に話を聞いてもらう対話の時間が、初期段階の打合せの大半を占めている。その期間、設計者は、クライアントの良き聞き役に徹している。結論がなく、整合性のない、飛躍している、そんな話をずっと聞きながら、クライアントが何を望んでいるのかを想像しながら聞いている。
クライアントが望んでいることを理解し、その解決方法を見つけ出すのは、設計者の仕事である。クライアントの考えのモヤモヤ度合いが深いほど、クライアント自らがその解決方法を見つけ、設計者に指示することはない。だから、クライアントは困っているのである。
できるだけ明快でシンプル、一度に複数の課題が解決でき、その上、付加価値が与えられる、そんな解決方法を見つけ出すことを心掛けている。その方が、コスト当たりの価値が高いはずである。
三郷団地O改修のキッチンカウンターがそれに当てはまる。キッチンカウンターをLDKの中央に設置することで以下の効果を意図して、計画した。
①キャスター付に収納庫が埋め込まれ、収納量を確保しつつ、隠れるのでスッキリ片付く
②システムキッチンの背後に台所家電が置くことができ、調理の動線がコンパクト
③背の高い古い家具を分解し組み込んだので、部屋の中の生活動線が明快になった
④リビングのソファーを西壁を背にし、キッチンカウンター上のTVを視聴できるので、部屋全体を見通せる
⑤ソファー以外にキッチンカウンター周りに座れる場所が生まれた
⑥お部屋の広がりを妨げず、お部屋の雰囲気を印象付けるインテリア家具
この6つの効果を別々の方法で行おうとすると、コストが掛かる上に、効果があまりない。そもそも、計画として成り立たないのではと思う。クライアントも、普通の会社では得られないような提案をしてもらったと、大変喜ばれた。